多くの投資家が持つソフトバンクの孫さんのイメージは「クレイジー」でしょう。
なんせ起業してからの歴史は、入ってきた金は一瞬で使うわ、使って金がなくなると今度は借りてきて一瞬で使うわの繰り返しです。LBO(レバレッジドバイアウト:買収先の事業を担保にして借入れた資金で買収する。いわば出世払い)も行っています。
つまりどこでコケても何ら不思議でなく、これまで潰れずに来ているのが奇跡なくらいなので「次こそは破産するんじゃないか」「もういい加減やめてくれ!」とビクビクしているのが投資家の本音じゃないでしょうか。
それが株価にも織り込まれて、これまでも孫さんが何か大型買収を発表するたびに株は暴落してきましたし、普段の株価も今の利益水準と成長率からすると安いレベルで推移しています。
これはつまり孫プレミアムを市場がマイナス評価していると考えられ、これはこれでフェアバリューと思います。
と、これまで私もそう考えていたのですが、最近少々見方が変わってきました。
孫さんのやることは実行時は理解不能なのですが、数年後にタネ明かしがあって、それを聞くと「なるほどそうだよな、そりゃ俺でもそうするわな」と思うことばかりなんです。
そうなると孫さんはクレイジーどころか、全くもって堅実かつ合理的な男なのではないか、とさえ思えてきました。
例えば初期に買収した展示会です。
次の時代がインターネットで社会の全てが大きく変わると確信を持っていれば、じゃあその時代をけん引するベンチャーはどこだという話になります。
するとそういうベンチャーが開発しているサービスを初リリースする展示会を買収してしまえば、ライバルよりも数日早く情報を入手できることになります。
それらの超新星たる企業に出資するためには、展示会の買収はなるほど合理的です。
孫さんは展示会の買収を「羅針盤を手に入れた」と言っていました。
そして、孫さんはいつも出資される企業側も驚くほどの条件を提示して出資を行います。そんな値段を出していいのか、というくらいです。
しかしこれも考えれば当然です。だってせっかく世間より少しだけ早く情報を得るために展示会まで買収したのに、グズグズして出資できなかったら意味がありません。
一気に話をすすめるには、出資される側でさえビビるような条件を出す必要があるじゃないですか。
と言う感じで、後知恵バイアス的には全くもって当然の行為と言えますが、数年後の世の中について完全にイメージしきってなければ到底できない所業です。
こうして発掘したのがあのヤフーでした。その後ITバブルでヤフー株は1株1億円を超え、孫さんはビルゲイツよりもお金持ちになりました。(ただし数日間だけ。その後バブル崩壊で株価大暴落して詐欺師呼ばわりされた)
そしてソフトバンク最大の大勝負といえば1兆7000億円でのボーダフォン買収でしょう。
当時のボーダフォンは一言で言えば負け犬で、シェアも技術も低く、利益もロクに出ておらず、まったく魅力のない会社でした。
こんなお荷物みたいなクズ企業を1兆7000億円も出して買うなんて、孫さんは気が狂ったのではないか、今度こそ終わりだ、と世間の人は思ったものです。(私もそう思いました。)
それも前代未聞の1兆円オーバーのLBOですから、これがどれだけ無謀な買収だったかが伺えます。
しかし、これには裏があったことを数年後に知りました。
あの時期、孫さんはスティーブ・ジョブスに会いに行き「次の時代のモバイルは手のひらでインターネットを自在に扱えるものでなくてはならない」と言ったそうです。
するとジョブスはニヤリと笑って「マサ、じゃあ早く免許を取れよ」と答えたそうです。
もちろんジョブスは企業秘密である開発中のiPhoneの詳細は話さなかったでしょう。
しかし孫さんはここで確信があったはずです。当時電車の中でニンテンドーDSに興じていた人々全員が、数年後には「全く新しいモバイル機器」に持ち変えている姿と、その「新しいモバイル機器」を独占販売できる見込みです。
そうだとすればボーダフォンの買収も頷けます。
ただ、ここには一つ大きな不安要素があります。いくらiPhoneの独占販売の見込みがあるとは言え、相手はアメリカ人です。契約前であれば「そんな約束してないよ」と後から言われたら終わりです。
この計画を確実に実行するには、ドコモやKDDIが後から話に来ても絶対についてこられないような、驚異的な条件をジョブスに提示する必要があったはずです。
そこでこの時、おそらく信じられないような価格と数量の条件を提示して契約に至ったのではないでしょうか。
そしてiPhoneの発売後、ソフトバンクは当時世界で大ヒットして誰もが欲しがっていたiPhoneを、なんと日本ではタダで配るという暴挙に出ました。
これも今となっては分かります。ブランドもサービスも最悪だったボーダフォンを一気に回復させるには、圧倒的な条件をユーザーに提示する必要があります。
儲けは後回しでとりあえずユーザーのカバンにiPhoneを突っ込む必要があったのです。
金のことは後からおいおい通信料で回収すればいいのです。そうしないとAppleと契約した数量を捌けませんし、グズグズしていたら会社は本当に潰れてしまいす。その間にボーダフォンのガタガタな通信品質も直さなきゃいけないし、時間がないのです。
ユーザーにとっては最も欲しいものがタダなんですから、そりゃあソフトバンクに乗り換えますよ。もちろん私もやりました。こうして現在のソフトバンクの姿があります。
これは頭の中で数年後の世界をイメージしきってなければ出来ない勝負ですが、逆に心底確信していれば全てが合理的と言えます。
今、相変わらずソフトバンクは狂ったように出資をしていて、中には私には良くわからないものもあります。
これは当然で、もし私が分かったら孫さんレベルで優秀ということになってしまうので、私にわかるはずもありません。
しかし多分、それらすべては何か大きなビジョンと勝算があるはずだと私は睨んでいます。
そして孫さんの情報革命をするんだ、という基本ビジョンは30年前から変わっていません。
次こそは大失敗するかもしれないし、それは分かりませんが、私は数年後のタネ明かしと、それで世の中がどう変わっているのかを見るのをまた楽しみにしています。
それと最初に、市場は孫プレミアムをマイナス評価していると書きました。
ということは、もし、もしですよ?市場の気が変わって孫プレミアムをプラスに評価しだしたら、それだけで株価は倍くらいになってもおかしくありません。
最近、ソフトバンクは(あれだけ派手にやっていれば当然ですが)ブルームバーグなどで取り上げられることが多くなり、将来的には海外で知名度が上がってくると、あり得るやもしれません。
そしてその時、業績自体も倍になっていたとすると、さらに株価は倍、都合4倍です。4倍でも時価総額はたった40兆円ですから、まだまだどうってことありません。
さらにこうなってくると勢いがついてきますので、おまけでもう一丁倍になって、テンバガー近い夢も見れそうです。
ここまでくると時価総額80兆円で、さすがにこれは無いだろうと思うのですが、孫さん自身は目標300兆円だとか言ってて笑えます。やっぱクレイジーだ。
そしてソフトバンクと言えば財務レバレッジが異常に高い会社というイメージでしたが、今やこれもだいぶ落ち着いてきています。
今でもドコモやKDDIに比べれば高いですがグローバル基準で見ればそれほどでもありません。もはやVZやTと同レベルです。
ただ、そんなふうに考えている投資信託も多いらしく、すでにそういう所はソフトバンクをかなり持っています。
そういう投資信託自体を買っている人は相場が弱気になればすぐ売りますので需給が相当悪化して、その上にトレーダーが乗っかってきますから、これは相当下がりそうですが、そうなればアホになって「うぇーい!」と言いながら買増ししたいと思っています。早くうぇーい買いしたいです。
https://investment-life-blog.blogspot.com/2017/09/blog-post.htmlソフトバンクの孫さん