企業が価値を創造するにはROIC(投下資本に対してどれだけ利益を出したかという率)がWACC(株主資本コスト率と有利子負債資本コスト率の加重平均)を上回る必要があります。
例えば1億円の投下資本で1年間に3000万円の利益を出す良いビジネスをしても、その投下資本の調達コストが3000万だったりしたら投資家は配当などの利回りはあるものの、その企業はそれ以上の価値を創造していないので株価は鳴かず飛ばずという結果になります。
つまり企業経営では利益率を改善してROICを上げることと同じくらい、WACCの資本コストを下げることも重要です。
そのWACCですが一般的には株主資本コストの方が高いです。
ということはですよ?この低金利のご時世、もし借り入れが出来るのであれば、目いっぱい有利子負債にした方がファイナンス的には企業価値は増大する事になります。
仮にROICが10%、株主資本コストが7%、有利子負債コストが3%で、有利子負債比率が50%であれば、WACCは5%となり(実際には税効果があるのでもっともっと下がる)、ROIC-WACCの5%が価値創造分となります。
この条件で、有利子負債を死ぬほど増やして比率を99%にしたらWACCは3%未満になり、ROIC-WACCのスプレッドがさらに広がって価値創造分が増大します。
エンタープライズDCFでは企業価値を“非事業用資産+事業価値”として見積もりますが、実際に計算すると企業価値のほとんどは事業価値が占めます。
事業価値は将来キャッシュフローの割引現在価値の総和なので、WACCが下がることで将来キャッシュフローの割引率が下がって割引現在価値がものすごく大きくなり、結果企業価値にとって大きな増加インパクトになります。
でも、これっておかしくないですか?
割引率はその企業に対するリスク認識ですが、借金を増やすほど企業のリスクは下がるものでしょうか?いやいや感覚的には受け入れがたい話です。これは単なる数字遊びではないかと。
まさにその点にフォーカスしたMM理論という「企業の資本構成をいじっても企業価値は変わらない」という理論があります。
これはあまり支持されていないのですが、私は感覚的になんかおかしいな、というのは結構な確率で正しいと思うので、個人的にはこの理論はアリだと思っています。
で、実はここ数年ずっとこの「なんかおかしいな・・・」という違和感が頭にありました。それを気づかせてくれたのがバフェットの「100年後にはダウは100万ドルになっている」という先日のニュース記事です。
私はこれを電車の中でツイッターで知って、以下のように考えました。
100年後に100万ドルということは、今2万ドルちょいだから100年で40倍ちょいか。すると、2→4→8→16→32→64で、100年で5回くらい2倍になるという事か。
100年で5回2倍になるなら、20年で2倍。すると、72÷20で利回り3.6%。
あれ?株式って7%とみんな言ってませんでしたっけ?
ということはつまり、バフェットは今後100年の成長率は過去の100年より半分になると言っている事に他なりません。
ここで最近モヤモヤしていた違和感が湧いてきまいた。
リーマンショック以後のニューノーマルでこれほど低金利が続いていて、企業はWACCを楽に下げることが出来、楽勝で企業価値を増大できるヌルイ環境が続いています。しかし、そんなに甘やかしすぎて、誰も文句を言わないのでしょうか。いや、そんなはずはない、やっぱ「なんかおかしい」。
そこで、もしかすると今後の100年では、株主資本コストが下がるのではないかと。そして、その下がった分は企業があまり儲けないことで、結果的に投資家以外に再配分される。
例えば過去数十年はROIC7%、WACC5%だった企業が、今後はROIC5%、WACC3%となるような感じです。投資家の期待利回りは以前より下がった株主資本コスト分になるので、株は今までより儲からなくなるのではないか。
私は資本主義の急所は持続不可能な格差拡大にあると思っていますが、これの解決策は税による再配分よりも、そもそも投資家の期待する利回りが下がれば、その格差拡大のスピードは大きく減退するわけで、こちらの方が私は有りうると思います。
もちろんそうなれば株だけでなく不動産その他もすべて期待利回りは下がるでしょう。
どういう経過を経てそういう新しいコンセンサスができるのかはわかりません。ひとつのシナリオとしては、このままダウが4万ドルくらいまで大した調整もなく上昇し、その後市場平均PERが30倍以上という時期が20年くらい続く。
すると「これでいいのではないか」という論が出て来て、ある時を境に誰もその状態を割高とは思わなくなる、というストーリーです。
投資家が期待する株式の利回りが今の半分の3.5%程度になることで、投資家が諦めた半分は、商品価格の低下や、労働者への賃金上昇などで価値が移転するのではないか。
株式の長期投資戦略は過去の株式の期待利回りが7%という事を拠り所としていますので、これが崩れると全てが崩壊します。
例えばインデックス投資で60歳でリタイアする計画が、実際には120歳くらいになってしまうかもしれず、大変です。まあ、そもそもインデックスに投資するだけで誰でも金だけ転がして暮らせるようになれる、なんてヌルイ話もまた私は「なにかおかしい、、」と思うのです。
そんな何も頭で考えて無い人が、格差社会の支配側になれるとは到底思わない。
バフェットの100年後に100万ドルの話は、そんなもろもろのモヤモヤの点が線でつながったような気がしました。
そう考えると、PERの調整が起きる次の2倍のダウ4万ドルまでは早そうなので、この最後のチャンスに乗ってポジションを増やしてもいいかもしれない、と思い始めました。
インフレ率を調整すると過去100年の7%はこれから100年の3.5%と大体同じくらいの価値になるのではないでしょうか。商品価格の低下という部分がそうですね。まあ一般レベルのインデックス投資の超長期の見積もりが甘いのは変わりないし少し分かってる人なら保守的に見積もっていますね。
返信削除なるほど、インフレ分を考えると実質どうかという話ですね。また20年後くらいにその時の状況をみて答え合わせしようと思ってiPhoneの2037年のカレンダーに予定を入れましたw
削除20世紀の株式利回りは1950年までの前半期が5%、2000年までの後半期が10%程度ですよ。
返信削除前半期のダウは大恐慌、第二次世界大戦という災難に見舞われ、1950年代に1929年の高値を抜くことができたのに対して、後半期は第二次世界大戦後の高度成長、1990年代後半はバブルになり2000年に天井を打つという幸運に恵まれたため、株の利回りが大きく上昇したのだと思います。
日本も戦後からバブル崩壊までの40年間、日経は年率15%程度でしたけど、その後は経済成長の低迷、バブル株価の是正のダブルパンチにより今に至るまで低迷ですから、アメリカや中国でも経済環境、人々の意識が激変したら利回りは大きく変化するでしょう。