2023/07/29

ぼくが投資で3億ためてFIREした話 〜2008年 リーマンショック その2~

     


 

さらにぼくの受難はこれだけでは終わらなかった。

ぼくが株に入れ込んでいると言う噂は会社の同僚に知れ渡っていた。もちろん自分から積極的に公言したつもりはない。しかしなんせ頭の中のほとんどは四六時中株のことを考えていたのである。こうなるとなかなか隠し通せるものでもない。何かの雑談の拍子にぽろっと本音が出ていたのだろう。

そしてテレビやネットでは連日、リーマンショックの話題でもちきりなのだ。同僚たちからしたら、このぼくの状況は「メシウマ」以外の何物でもなかっただろう。ろくに仕事もできないくせに、一発逆転を夢見て株なんていうギャンブルになけなしの全財産を突っ込んでいたキチガイが大損したに違いない、と。

そしてそんな同僚たちの財産は全額円預金でびくともしていない。いやむしろ(彼らはその意識はなかったと思うが)強烈な円高によりその価値は大きく増していたのだ。するとちょっと軽い気持ちでからかいにくる者も現れる。

 

「株、すごい下がってるみたいだけど大丈夫?笑」

「株、まだ下がるってテレビで言ってるよ!どうするの?笑」

 

青い顔で廊下を歩いているぼくにすれ違いざまや、自席で仕事が手につかなくなっている時、入れ替わり立ち代わりそんなことを半笑いで冗談交じりに話しかけてくる同僚や上司たち。

もちろん彼らに悪気は無いだろう。ぼくがそんな精神状態になっている事など知る由もないのだから、本当に軽い世間話のつもりであろう。しかし当時のぼくにはそれを笑いに変える余裕はなく、ただただ苦笑いでその場をごまかすことが精一杯だった。

しかしまだ明るい昼間なら良い。夜は本当につらい。夜暗くなってから歩いて帰っていると、何かに押しつぶされそうな感覚を覚えた。

 

株は結果が全てだ。ぼくは負けた。一時は心の中でバカにしていた「同僚達の方がバカ」なんてのはとんでもない話で、バカなのはぼくだったんだ。

そもそも彼ら優秀な同僚なら投資をやらせてもぼくより上手くやったに違いない。頭も要領もよく仕事も出来る彼らなら、きっとそうだろう。そんな優秀な同僚たちでさえ、ぼくが株にうつつを抜かしている5年間、必死に仕事でスキルを磨いて実績を積み上げていたのだ。どちらが正しかったのかは言うまでもない。ぼくはこの時30代半ば。もう絶対に彼らには追いつけないだろう。

 

ぼくはウサギとカメのカメだ。しかし昔話と違うのは、ウサギである同僚たちはその高い能力で休まず走り続け、能力の低いぼくは怠けていたのだ。この差はもう埋め切れないほど広がっていた。これが本当の社会だ。強いものはより強くなり、弱いものは淘汰される。現実世界で勝つのはウサギであってカメではない。なぜこんな当たり前のことに今更気づいたのか。もう負けを認めよう。負けを認めてやり直そう。

ぼくは物事に失敗した時、いつもやることがある。まず落ち着いて、今もっているものを確認して、これを元にどう再構築していくか考えるのだ。ぼくは負けを認め、心を入れ替えて新人になったつもりになり、優秀な同僚がいかんなく能力を発揮できるよう、サポート的な業務から地道にやっていくしかないのではないか。そんなことを考えながら帰宅した。

 

暗い夜道を歩いて帰ってから少し食事などをしてみたものの喉を通らない。まるで脳の中心に大きな鉛玉を埋め込まれたようだ。少し別のことをしてみようと思いぼくはパソコンをつけた。

そうだ、世の中にはぼくと同じような思いをしている人もたくさんいるに違いない。彼らはどうしているんだろう。そう思ったぼくは株式掲示板を見に行った。そこは次のような書き込みで溢れていた。

 

「なんで下がるってわかってるのに株なんて買うの?バカなの?」

 

「買い豚の皆さん、今日もご馳走様でした!(^^)

 

「ホルダーのみなさん今どんな気持ち?ねぇねぇ^ ^

 

ぼくはそっとパソコンを閉じた。そして翌日もその翌日も、相場は下げて行った。掲示板の彼らの言うことまで正しかった。

いや、掲示板だけではない。日経やブルームバーグ、テレビの経済専門番組といったトラディショナルなメディアも、学者やエコノミストといった識者も、言葉はきれいだが全て言っている事はほぼ同じだった。

世界で間違っているのはぼくだけだった。

【次回へ続く】

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